チューリヒ亡命時代のザルテン ― かわいい『バンビ』と『バンビの子ともたち』を中心に

発表者
若松宣子
日時:
2023年3月28日
場所:
オンライン

発表要旨:

『バンビ』の作者、フェーリクス・ザルテンは従来、アメリカに亡命し、戦後スイスで死去したと紹介されることが多かったが、2020年10月からウィーンの美術館で開催された展覧会などで公開された研究書などに基づき、実際は、スイスで結婚していた娘の助力で1939年にチューリヒに亡命し、バンビの続編『バンビの子どもたち』などを出版していたことを明らかにした。

また『バンビ』とその続編では、主題に大きな変化があった。続編では一貫して戦い、不安、死が描かれ、動物たちを覆う暗い陰にザルテンのおかれたきびしい状況の影響が認められた。そして動物と人間のつきあいの描き方も大きく変化していた。続編では一巻目では描かれなかった人間の善良さ、有益さが強調されており、そこには狩猟家であったザルテンの釈明が読み取れた。

さらに初邦訳も従来、主婦之友社から出版された菊池重三郎による『バンビの歌』 (1940)とされることが多かったが、こちらも白日荘で発行されていた雑誌「動物文学」37号に掲載された内山賢次の訳による『兒鹿物語』が『バンビ』の日本での初めての翻訳だったことも確認された。