発表者:
葛西敬之
日時:
2025/09/27
場所:
東洋大学白山キャンパス
発表要旨:
本発表は、スイスの作家ローベルト・ヴァルザーが1925年に出版した最後の作品集『薔薇』(Die Rose)を対象に、その成立過程、構成、受容史、そして内在的読解の可能性を探る試みである。『薔薇』はヴァルザーが自らの意志で編纂・出版した最後の書籍でありながら、研究対象としては長らく見過ごされてきた。本発表では語りの不確実性や反省性、国際性と地域性の緊張関係、歴史的・文化的権威の相対化および自己言及性などいくつかのモティーフを手掛かりに作品集内に単なる寄せ集め以上の連関が存在していることを示した。またこの作品集全体としては、作品集に収録されている小品「薔薇」の読解およびこの作品集を通底する自己言及性を背景に、一義的な解釈はあえて避けられるように構成されており、その解釈は薔薇の花さながらに読者へと委ねられていることを示した。