発表者:
鍵谷優介
日時:
2017/12/16
場所:
明治大学駿河台キャンパスリバティータワー1141教室
発表要旨;
H.ヘッセの第二次バーゼル時代(1899~1904)における重要な出来事として、まず1)バーゼルの書店に赴任する前に旅行したフィーアヴァルトシュテッテ湖での体験(1899~1900)、2)バーゼルの名門一家、及びこの地での知識層の人々との交際、そして3)長期のイタリア旅行(1901年及び1903年)を挙げ、これらの体験が執筆に及ぼした影響を指摘した。
そして後半では、バーゼルで主に執筆されてヘッセの出世作となった『ペーター・カーメンツィント』の成立事情、日本での訳出の際の背景を踏まえた上で、この作品に内在する諸問題として「友情」と「死生観」を取り上げ、主人公と友情を結んだ登場人物との関係性と死別、主人公の内面の変遷を辿った。前作『ヘルマン・ラウシャー』においてたびたび指摘されている内省的側面は、他者への献身、そして故郷へ戻って地域に貢献するという形で、自己の内面に沈潜していた段階から一歩踏み出たことを示しつつ結末を迎えている。
/* Style Definitions */
また後になって、この作品を課題として与えられたフランスの大学生の問いに対してヘッセ自身、この作品が国家や社会といったいかなる集団にも規定されない、徹頭徹尾個人の成長の記録であることを吐露している点に言及した。