発表者:
新本史斉
日時:
2022/09/24
場所:
オンライン
発表要旨;
本発表では、スイス建国神話の解体を試みたヘルマン・ブルガー(Hermann Burger 1942-1989)の長編小説『人為の母(Die Künstliche Mutter)』(1982)におけるレトリックの諸相を読み解いていく。この小説は、母国スイスのナショナル・イデオロギーを形成してきた諸々のモチーフとの対峙、主人公シェルコプフ、および、そこに重ねうるブルガー自身の〈母をめぐる病〉との対峙という二本の糸から編まれた、二重の意味での自己虚構的なテクストであり、作品タイトルと同名の未知の治療法に主人公を赴かせるブルガーは、この小説の執筆を通じて、国家レベルでの母(=神話化されたヘルベチア)と個人レベルでの母、両者の解体を試みようとしたのである。
(なお、発表内容の詳細については、新本史斉「スイス建国神話を掘り崩す、苦痛から生まれる言語―ヘルマン・ブルガー『人為の母』におけるレトリックの諸相―」、『文芸研究』149号(45-66頁)、明治大学文学部紀要、2023年2月、を参照されたい。)