ヨハンナ・シュピーリの生涯[と作品]

発表者:

川島 隆

 

日時: 

2013/07/27

場所: 

明治大学駿河台キャンパス リバティータワー 13F 1138教室

発表要旨;

児童文学の古典『ハイジ』(1880、続編1881)で知られるヨハンナ・シュピーリは、急速に近代化が進む19世紀のスイス社会にあって、自由思想と保守思想の相剋を一身に体現した作家である。彼女はその生涯を通じ、同時代のリベラリズムの伸長に抗した保守系知識人の陣営の中核にいたが、その一方で高度にリベラルな心性を保持してもいた。その解決不能な矛盾は、シュピーリ作品に頻出する「教育」というテーマに集約的に表れている。彼女はすでに幼少期から、リベラルな教育改革と、それに対する反動が招いた動乱の影響をまともに受けつつ育った。当時の女性としては比較的高度な教育を受けた彼女は、遅い作家デビュー(1871)を果たしたのち、1875年に開校したチューリヒ高等女学校の理事を務めるなど、女性教育の問題に実践レベルでも取り組んだ。大学で学ぶ女性たちを描いた長編小説『ジーナ』(1884)には、女性解放に反対する保守的イデオロギーと、女性の就学機会および経済的自立を希求するメンタリティという二つの相反するものが表現されている。