発表者:
若松宣子
日時:
2018/11/25
場所:
秋保リゾートホテルクレセント(宮城県仙台市太白区秋保町
発表要旨;
現代の子どもたちが抱える問題を19世紀のメルヒェンの様式で語る、子ども向け作品を発表し続けているルーカス・ハルトマンのMein Dschinn: Abenteuerroman(2014)を取り上げた。
この作品では、児童養護施設で暮らす十一歳の主人公のラースが、不思議な力をもつ男に助けられてインドにいるという母親を探す旅が描かれる。男は「わたしのジン」と呼ばれ、困っているときに呼ぶと出現し、空を飛ぶ力もある。また作品の語りはメルヒェンのような形式で、19世紀後半から20世紀前半に発表されたマロの『家なき子』やバーネットの『秘密の花園』などの孤児が登場する古典的な物語を彷彿とさせる物語の展開となっている。
しかし、物語のモチーフや形式は古典的だが、ラースの母親はインドで麻薬取引に加担させられていて本人も薬物中毒で苦しんでいたり、移民の問題が扱われたりしている。こうした作品形式はハルトマンのこれまでの子ども向け作品『なんと長い鼻』や『キスして、ラリッサ・ラルース』でもみられたもので、古典的な物語形式と現代的なテーマを組み合わせて現代のメルヒェンを創作しつづけるハルトマンの新たな一面が確認できた。
また大人向け、子ども向けと両方の読者に向けて精力的に作品を発表するハルトマンが、子ども向け作品を書く理由について質問された際に、子どもの視点を重要視していて、子どもの視点は不可能なものも可能にする力があり、それが物語を書く原動力になると語った点についても取り上げ、ハルトマンが考える子ども向け作品だからこそできる文学形式について考察した。