クリストフ・バドゥー『連邦警官ショッホ』に見られる「スイスらしさ」

発表者
橋本由紀子
日時:
2016年2月22日
場所:
明治大学御茶ノ水校舎 研究棟第5会議室

発表要旨:

1999年、コミック作家クリストフ・バドゥーと喜劇俳優兼脚本家べアート・シュラッター、作家イェルク・ブレンドリの3人の共著による、スイスを舞台にしたコミック『連邦警官ショッホ―赤いとんがり帽子作戦』が発表された。チューリヒ郊外の町シュリーレンで、人間が庭の置物として使われる小人人形に殺害されたという奇妙な事件をきっかけに、連邦警察の窓際族警官グレゴール・ショッホが、小人ゴットリープと協力して事件の真相解決に奔走するというのが、このコミックのあらすじである。
発表では、以下の3点を指摘した。
(1)この作品に所々にみられるスイスを彷彿とさせるモチーフをもって表層的に「スイスらしさ」を探ることは無意味であること。
(2)この作品において注目すべきものは、スイスの伝統と文化の保持を異様なまでにこだわり、自らの要求を押し通すために政府を脅迫する右傾化した小人軍団(Nanistische Armeefraktion)であること。
(3)小人軍団の描写には、この作品の制作および発表当時の1990年代末における、スイス国民党主導による、コソボ難民を主なターゲットにした外国人排斥キャンペーンといった国内事情が、ストーリーの素材の一部という形ではあるにせよ、反映されていること。