スイスと音楽 -「理想郷スイス」の音楽的表現 -

発表者
畑野小百合
日時:
2019年3月1日
場所:
明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント 404R

発表要旨:

 「スイスの音楽」について語ることは容易ではない。西洋音楽史上、特定の時期や文化圏で共有された「スイスらしさ」を表現する書法や、「スイス」と結びついたトポス的なものについては指摘できるが、周辺国からの影響と無縁ではいられない地理的状況は「純スイス 的」な音楽について語ることを不可能にしているし、スイス連邦共和国自体が複合的かつ多面的である限りにおいて、「スイスの音楽」を定義することも難しい。本発表では、スイスを音楽的に表象する国内外における取り組みの輪郭を描くことを試み、さらに多言語・多文化を内包するという事情がスイスの音楽史・音楽文化にどのような反映をみせているのかを検討する。

 音楽史的な関心をもってスイスに目を向けるとき、周辺の音楽大国のような形では、大作曲家や支配的な音楽のスタイルが現れてこない。しかしそれは、スイスの芸術音楽を取り巻く環境や音楽に求められてきたものがそれらの国とは違うということであって、スイスの音楽文化自体に見るべきものがないということではない。分散型であるスイスの音楽文化の特性を理解し、地域的特性や周辺国との影響関係を検討していくことで、スイス独自の音楽のあり方を評価する視点が見出されていくだろう。