映画『神の秩序(原題:Die göttliche Ordnung)』について

発表者:

橋本由紀子

 

日時: 

2022/03/18

場所: 

オンライン

発表要旨;

 2017年公開のスイス映画『Die göttliche Ordnung(神の秩序)』は、平凡な主婦である主人公が、外に出て仕事をしたいと思ったことをきっかけに、女性の社会進出運動に目覚め、女性参政権を国民投票で社会に認めさせるまでの物語である。作中に見られる主要トピックは、1970年代のスイス(特に田舎)の現状、前回(1959年)の女性参政権に関する国民投票時の世代と1971年のそれとの対比などがある。妻は夫の許可なく外に仕事をしに行けないことの他、未婚女性が自由奔放な恋愛をすると警察に連行され収容所に入れられたこと、女性に経済的権利が一切認められていなかったこと、女性の政治参加が70年代になっても認められていなかったことなどが、滑稽さも交えて描かれ、当時のスイスがいかに陸の孤島であったかが如実に描かれている。作中での滑稽さが女性参政権獲得という大テーマを損ねているのではと指摘する批評もある。しかし、女性の中にも女性参政権反対の人物がいたり、男性の中にも社会で要求される「理想の家庭像」に苦悩する男性がいたりするなど、女性と男性の描き方を単純化しない演出で、この映画は概ね高い評価を得ている。その一方で、時間的制約のせいか、100年以上にわたるスイスの女性参政権獲得の苦労とその歴史についての言及は極めて少ない。このことが、この映画の唯一惜しまれる点であろう。