スイス相撲(Schwingen)に見る「スイス性」
―映画Hoselupfを手がかりに

発表者
橋本 由紀子
日時:
2018年11月24日
場所:
秋保リゾートホテルクレセント(宮城県仙台市太白区秋保町)

発表要旨:

 近年スイスでは、Schwingen(スイス相撲またはスイスレスリング)と呼ばれるスポーツが人気を集めている。2011年に公開された『スイス相撲(原題:Hoselupf)』は、Schwingenの人気の秘密を探るために制作された映画である。内容は、スイスの喜劇役者兼脚本家ベアート・シュラッターが、このスポーツを誰にでもできそうだと見なし、ふとしたきっかけで16歳のジュニア選手と全国大会で戦うことになり、トレーニングを重ねて臨んだ本番の試合で例のジュニア選手に敗退するが、競技後の爽快感や、選手と観客の一体感、競技を通してでなければ決して出会えなかった人との出会いなど、当事者にしか味わえない体験を経てSchwingenの魅力を発見する、というものである。映画では、シュラッターがSchwingen関係者に取材をしながら、スイス相撲の歴史や、この競技の過酷さを学ぶ場面も数多く挿入されている。この映画をもとに、以下の要点で発表を行った。

(1)Schwingenが競技史において、特に19世紀にいかにして「スイス的」という色付けがなされていったかということ。

(2)一方、実際のSchwingen競技者には、自分たちがスイス文化を体現しているという意識は全くなく、彼らが純粋に地域の伝統文化を継承している意識を持つだけだということ。

(3)Schwingenという競技には、試合後に相手の健闘をたたえてお互いの背中についたおが屑を手で払ってやる等、人格陶冶の側面があり、サッカーのようなプロ化やグローバル化を求める雰囲気がスイス国内に全くないこと。かといって、こうした内向きに見える志向が単純に「スイスらしさ」であるとまでは考えられてもいないこと。