仲介者、翻訳者、そして作者
-カール・ゼーリヒの『ローベルト・ヴァルザーとの散策』を翻訳論的視点から読み解く

発表者
新本史斉
日時:
2021年9月25日
場所:
オンライン

発表要旨:

2021年春、カール・ゼーリヒの『ローベルト・ヴァルザーとの散策(Wanderungen mit Robert Walser)』のドイツ語新版と仏語新訳が豊富な巻末資料を加えた形で同時刊行された。1957 年に刊⾏されて以来、貴重な同時代⼈の証⾔として読まれてきた本書は、いまやヴァルザーの「生」について知ることのできる資料としてだけではなく、ヴァルザーの詩人像形成の過程=その「死後の生」をも批判的に読み解きうる資料として、ヴァルザー研究における最新の知見を添えて、読者の元に届けられたのである。本発表ではこの新版テクストおよびその日本語訳に拠りつつ、カール・ゼーリヒが作家ローベルト・ヴァルザーを後世に伝えていくに際してとった態度を、「仲介者」、「読者」、「作者」という三つの立場からのアプローチに分類した上で、さらにこれを翻訳作業の一種と捉え直し、「翻訳者」ゼーリヒによる「歪曲」とその失敗からこそ生じえた、本書の魅力について分析を試みた。